ホコテンでの出会い
僕は長い間、原宿のホコテンの近くに住んでいました。
歩いてすぐの距離でしたが、僕はさほど興味もなく、行ったことはありませんでした。
ある日、何となくテレビを見ていたら、原宿のホコテンの特集をやっていました。
番組では、奇妙なオジサンがインタビューに応えていました。
服を前後逆に着て、口笛を吹いて、奇妙な踊りをクネクネ踊っているオジサンでした。
「どうしてお洋服を前後反対に着ているのですか?」
「いや、目立つと思って・・・」
僕は、大変面白くそのインタビューを見ていました。
そして次の日曜日には、ホコテンに行って、このオジサンと会ってこようと思ったのです。
そして日曜日、ホコテンにそのオジサンはいました。
「出張演奏、楽団との合同演奏いたします」と書かれた手書きのポスターがありました。楽団…バンドの事らしい。
口笛は、とてつもなく上手い!そして、クネクネとした妙な踊り。僕は笑い転げてそのステージを見ました。
休憩時間になったらしいので、僕はオジサンに話しかけました。
「ここにはもう何年も前から来ているんです。ここは本当に自由だからね。死ぬまでここに来るよ」
オジサンは、照れながら話してくれました。
「オジサン、また来週来るよ」と約束したその瞬間が、僕の長いホコテン通いの始まりだったのです。
オジサンは皆に「口笛おじさん」と呼ばれていました。

口笛おじさん
口笛おじさんの所に通うようになってしばらくした頃、隣で演奏しているバンドが目に付きました。
どうやら、全曲アドリブらしく、ダラダラと演奏していて、誰も立ち止まらないようなバンドでした。
友人と「あんな風に演奏してたら、誰も見ねえよ」などとさんざん悪口を言っていましたが、そのうち友人は帰ってしまいました。
しかし信じられないことに、夕暮れも間近な頃、そのバンドのノリがどんどん良くなり、僕は目を見張ったのです。
大勢の人が集まりだし、そのうち一人の外国人が踊りだすと、何人もの人間がそれに続き、そこは即席のダンスフロアになったのです。素晴らしい演奏でした。
大きな拍手と共に演奏が終わり、僕は後かたづけをしているメンバーに声をかけました。
「すごい良かったよ」
「あ、ドーモドーモ!今度新宿でライブがあるから見に来てよ。ウッヘッヘ!これチケット。あげる」
「バンド名、どこかに書いた方がいいよ」
「あ、そうだね。ウッヘッヘ!」
僕は、そのチケットを持って帰りましたが、ライブは忘れて見に行きませんでした。チケットにもバンド名はありませんでした。
それから数ヶ月、ホコテンをブラブラしていたら、前の方から見た顔が…。そう、いつか見た名前も知らないバンドのギターのヤツだったのです。ギターを背中に背負っています。
「おう!」
「あ、おっす!どこかでやってるの?」
「口笛おじさんの所で」
「じゃあ、俺もやろう。ウッヘッヘ!」
奇妙な笑い声のギタリストは「山田」という名前でした。
その日から、毎週ホコテンで会うようになりました。

ウッヘッヘ!山田
山田は、自分のバンドが上手く行かなくなっていました。ホコテンでめぼしいメンバーを集めたいという話です。
「一緒にやらない?」「いいよ」即決です。
「何人かスカウトしたから、今度スタジオに入ろう」山田は言いました。スタジオに行ってみると、見たことのある顔が…。
何度かホコテンで見た「ほっかむり」をして妙な踊りを踊ったり、タンバリンを叩いていた女の子がそのスタジオにいました。
口笛おじさんの所で話をしたこともあった女の子でした。
その人は普段は女優をしている人でしたが、スタジオでは、アドリブが得意なメンバーばかりで、大いに盛り上がりました。なにしろ、1曲が2時間でも平気なのです。
メンバー4人のうち、3人が偶然矢野顕子さんのファンだった事にも驚きました。ホコテンの演奏は、このメンバーが中心となったのです。
ある日、口笛おじさんの隣に、また新しい顔が現れました。フリフリのドレスを着て、座って化粧をしたりしています。
僕らは「役者志望で、度胸試しに来ているのかなあ?」と話していました。何をするでもなく、シートにピンクのテーブルを置いて座り、鏡を見たり、くつろいだりしているのです。
話してみると、女装するのが趣味で、ホコテンに遊びに来ている、と話してくれたのでした。
それから毎週、フリフリのドレスを着て現れるようになったこの人の名前は「キャンディちゃん」でした。
次の週から、もう一緒に活動するようになりました。

キャンディちゃん
奇抜なファッションばかりのホコテンでも、僕らは特に目立ちました。口笛おじさんは、ズボンの上からトランクスを履いて、穴の空いたチューリップハットをかぶっていました。
演奏していても、観客は怖がって遠巻きに見ている事が多かったように思います。
ホコテンがなくなってからも、僕らは連絡を取り合っています。インターネットでキャンディちゃんや山田、浦ともやり取りが出来るようになりました。相変わらず、みんな独自の活動をしています。
もしも僕が「口笛おじさんのインタビューを見ていなかったら」と考えると、人との出会いの不思議さを感じずにはいられません。
またいつか、このメンバーで何か活動がしたいと思っています。どんな形での活動かはわからないですが、やりたいです。
そのためには、祈ることはただ1つ「現在年金で一人で暮らしている口笛おじさん、長生きしてよ」という事なのです。
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