音楽の話

 

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桜田淳子の幸せなベスト盤

 以前「日替わりエッセイ」で、キャンディーズの2枚組のベスト盤の編集のひどさを嘆いたことがありました。愛情のない編集と構成、そして偏った選曲にガッカリしたのです。

 そういう事があったので、桜田淳子の2枚組のベスト盤も全然期待をせずに購入しました。


 しかし、これが何とも素晴らしいアルバムだったのです。

 桜田淳子の魅力がギッシリ詰まった選曲、文句の付けようのない写真、当時の雰囲気を伝えるためにわざわざ収録されたライヴテイク、全てが本当に素晴らしいのです。

 

 当時のプロデューサーの長文のコメントがブックレットに載っていますが、それを読んでもこのアルバムが愛情溢れた気持ちで作られている事が良くわかります。

 桜田淳子と共有した美しい時間を、ファンとスタッフでもう一度思い出したいという気持ちが込められているのです。

 それは、まるで日記を読み返すようです。


 この2枚組のベスト盤には、ライヴが数曲収録されています。

 ファンの大声援に感激した桜田淳子が、「はじめての出来事」を泣きながら歌っているテイクが収録されていますが、僕もそれを聴いて、思わず泣いてしまいました。

 間奏では、桜田淳子が繰り返し「どうもありがとうございます」と言っています。この1曲に、プロデューサーや当時関わったスタッフの気持ちが集約されているように思います。

 

 このテイクは後半のテンポが異常に速いです。これは、指揮者が泣いている桜田淳子がきちんと最後まで歌えるように配慮したためではないでしょうか。

 そして、不安定になった歌をフォローするように、最後はバックコーラスの人が桜田淳子と一緒にユニゾンで歌っています。こんな事は、普通なら絶対に考えられない事です。

 

 プロデューサーのライナーにあったように、桜田淳子がスタッフやバンドから、とても愛されていたという事を証明しているライヴテイクです。それに僕は泣かされたのです。


 桜田淳子は宗教がらみもあって、僕らの前から姿を消しました。しかし、このような愛情溢れるベスト盤を作ってもらえて、本当に幸せな歌手だと思います。

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ピアノを弾く男

 タイトルには「ピアノを弾く男」と書きましたが、広い意味で、鍵盤楽器を弾く男性の事を書きます。(「鍵盤楽器を弾く男」では、響きの悪いタイトルなので)。


 僕が中学三年生になるまで、ピアノやエレクトーンを弾ける男子というのは嘲笑の対象にされていました。「女みたい」と言われたのです。

 僕は自分の意志で、鍵盤楽器を小学三年生の頃から中学三年生まで習いましたが、その事は仲のいい友達にもひた隠しにしていました(親友の浦でさえこのエッセイを読むまで知りませんでした)。

 実際、僕が音楽室でピアノを弾いていると「オンナー!」「オカマー!」などと言われたものです(注:これは僕の風貌から言われたことでは決してありません)。


 本音を話してしまうと、僕もレッスンは大嫌いでイヤイヤ続けていたのですが、中学生になって音楽を始めると、ピアノを弾くのが楽しくなってきました。

 しかしクラスメイトには恥ずかしくて、そんな事は絶対に言えなかったのです。


 そんな状況が、ある日を境に一変しました。YMOの出現です(僕が中学三年生の時にYMOはデビューしました)。

 YMOのブームと共に、ピアノやシンセサイザーを弾ける男がカッコ良くなりました。それは、本当に劇的な変化でした。

 

 バンド仲間の前で、ピアノやシンセを弾くと「弾けていいなあ」「カッコいいなあ」と言われるようになりました。

 僕はテクノブームのずっと前からシンセは何台か持っていたし、友達が来ると「弾いてくれ」と言われるようになったのです。


 今では男がピアノやシンセを弾いていても、なんの違和感もありません。「オンナー!」と言う奴もいません。

 安いキーボードを買えば、誰でも本格的な音楽が、簡単に作れる時代になりました。

 僕は、電子鍵盤楽器が日進月歩する真ん中で10代を過ごす事が出来て、とても幸運だったと思います。

 

 しかし、僕よりも上の世代には「オンナー!」と言われたままの人たちも、きっと沢山いたはずです。

 クラスメイトの無責任な冷やかしを恐れて、好きで弾いていたピアノや鍵盤楽器のことをひた隠しにしていた僕たちというのは、一体なんだったのでしょうか。

 

 楽器が弾けると冷やかす、だから楽器が弾ける事を隠さなければならない。これはとても悲しい事でした(それと同様に、楽器が弾けるのを自慢する事も悲しいことです)。

 僕たちを奇異の目で見ていたクラスメイトは、今の時代を見てどう思っているのでしょうか。


 あの頃、こっそりと音楽室で一緒にピアノを弾いたクラスメイトの笑っている横顔や、響くピアノの音を、たまに思い出す事があります。

 それはもちろん、僕には「楽しかった想い出」として記憶され、輝いているのです。

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昔の歌謡曲

 最近よく聴いているのが昔の歌謡曲です。友達にも好きな奴が多いし、情報を交換しながらかなり前から(高校生の頃から)聴いていたのですが、最近また熱が出たようです。

 よく聴くのは女性のものです。麻丘めぐみ、天地真理、アグネス・チャン、キャンディーズなどが好みで、一日中聴いていることも多いです。


 やっぱりレコードマニアの顔が出て、作家やアレンジャーなどにも当然チェックを入れてしまいます。

 筒美京平や浜口庫之助などはポップスファンならチェックしていない人間はいないと思いますが、昔から大好きだった曲を、意外な作曲家が作っていてビックリする事もあります。


 アグネス・チャンの「星に願いを」という曲が当時から大好きで、アレンジを含め日本のポップスの完成型だとずっと思ってきました。

 ディズニーに同名の曲がありますが(「ピノキオ」の主題歌)、アグネス・チャンの方はまったく関係はない同名異曲です。

「星に願いを」(歌 アグネス・チャン)の作家陣は以下の通り。

 

●作詞 安井かずみ ●作曲 平尾昌晃 ●編曲 馬飼野俊一

 

「なに?平尾昌晃?!」僕のイメージでは「瀬戸の花嫁」「よこはまたそがれ」「ミヨちゃん」「カナダからの手紙」などの、ちょっと田舎っぽい作曲家というイメージでした。

 これには参りました。平尾昌晃の曲で、こんなに愛聴した曲があったでしょうか。歌謡界の奥の深さを思い知らされます。やるなあ、平尾昌晃!


 それから、浅野ゆう子がカヴァーした「セクシー・バス・ストップ」は最近よく聴く曲です。

 オリジナルは「オリエンタル・エキスプレス」というグループで、名前の通り「セクシー・バス・ストップ」も核になるメロディーはペンタトニック・スケールで作られています(これは日本では演歌で使われる音階で、ドレミソラの5つの音だけでメロディーを作るのです。四度と七度の音が抜けているため、ヨナ抜きとも呼ばれます)。

 この曲はEPOもカヴァーしているのでCDを買いましたが、なかなか元気がよくていいヴァージョンだと思います。

 浅野ゆう子のアルバムはディスコ調で、あんまり収録曲は面白くないのですが、同じくオリエンタル・エクスプレスをカヴァーした「ハッスル・ジェット」という曲はかっこいいです(しかし凄いタイトルだなあ、ハッスル・ジェット…)。

 「ハッスル・ジェット」は他にシェリーや鈴木蘭々も歌っていますが、特に鈴木蘭々のヴァージョンは素晴らしいです。

 どちらも作曲は筒美京平です。


 歌謡曲に関しては、ここでは話しきれないので、また気が向いたら書こうと思っています。

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